第1回 象牙細管(ぞうげ・さいかん)の話

冷たい水や甘いものを口に含むと、歯が沁みるときがあります。
ジーンと痛みを強く感じるときもありますが、どうしてこのような現象が起こるのでしょうか。
問題は歯の構造にあります。
歯は複雑な構造をしています。
歯が沁みる現象は「象牙細管」という歯の部分が大きく関与しています。
今回はこの「象牙細管」の説明をさせていただきます。
はじめて耳にする方が多いと思いますが、医療者にとってはお口の様々な症状を診断するうえで欠かせない知識です。これを機に皆さんと情報を共有できれば幸いです。

〇象牙細管とは何か
…テレビや巷に流布しているイラストで目にするのは下記のような図①が一般的です。
その多くは象牙細管の場所が示されていません。
象牙細管は象牙質にあり、歯髄とエナメル質の間を通るストローのような管です。これは非常に細い管で、顕微鏡で観察しないと見えません。図②
…歯髄には神経が豊富にあります。その先端の一部は象牙細管の一端に触れており、
象牙細管の中に変化が起こったときに、その状況を察知して脳に信号を送ります。

図①
図②

〇沁みるのは何故か
…図①のように、象牙細管はエナメル質や歯肉に覆われて、外からの刺激(冷水、空気の流れ、甘みなど)は遮断されています。
…普段、被覆されている象牙細管の孔(あな)は歯肉が下がることで、露出してしまいます。そこに外からの刺激を受けると、歯髄(しずい)にある神経が感じ取り痛みを生じます。図③
この症状を「知覚過敏(ちかくかびん)」と呼びます。

〇沁みた歯はどうなるのか
象牙細管が露出した部分は、ストローの口が空いているような状態ですが、かなり小さい口です。唾液に含まれるミネラルの成分(カルシウム、リンなど)が、小さい口に沈着しこの孔を塞ぐことがあります。そのとき外からの刺激は遮断され、自然に痛みは感じなくなります。
ただし、この自然の仕組みの邪魔をする何かが原因となり、自然に痛みが治まらない場合もあります。

図③

〇虫歯を作る細菌が象牙細管に到達すると大変です。
知覚過敏は刺激が象牙細管に侵入して起こる症状です。
刺激ではなく、細菌が象牙細管に侵入するときがあります。それはエナメル質から虫歯になり、虫歯が次第に大きくなって象牙質に達した時です。
象牙細管から細菌が歯髄に侵入すると、そこで炎症を起こし、歯が痛みます。

…この痛みは、知覚過敏の痛みと異なり、冷水、空気の流れ、甘みなどの刺激とは関係なく、自発的に長時間ズキズキしたり、重い感じがします。

今回は歯が沁みるお話でした。
次回は虫歯と痛みついて述べさせていただきます。

※本欄についてのご質問は、誠に申し訳ありませんが現在学会では承っておりません。