第2回 医療倫理の四原則

 シリーズ2回目となる今回は、「医療倫理の原則」についてポイントを絞ってお話します。
 臨床、研究、公衆衛生、それぞれの領域で倫理的問題は生じてきます。さて、そうした医療における倫理的問題について、わたしたちはどのように考えていくとよいでしょうか。
 医療倫理の問題を考えるための道しるべとして役立つものに、医療倫理の四原則があります。①自律尊重 ②無危害 ③善行 ④正義の原則です。この四原則に沿って倫理的問題を考えることで、複雑な問題を小分けに整理し、問題をクリアに捉えることができるようになります。

①自律尊重原則

 自律性とは、自分で考え、自分で行為するということです。自由主義社会に暮らすわたしたちには、人生を自由に構想し、謳歌する権利があります。
 医療を受けるときにも、「自分で決める」という権利が侵害されてはなりません。この権利を保証しているのが「インフォームド・コンセント」というルールです。医療を受けるときには、自分がどのような医療を受けるのか、しっかりと説明を聞き、理解し、自分の意思で同意することが重要です。
 やりたくないことをやる必要はありません。やられたくないことを強要されてはなりません。自律尊重原則とは、わたしたちひとりひとりが人間として尊重されなければならないという原則です。

②無危害原則

 薬には副作用があります。手術には、合併症があります。医療には、どうしてもリスクが伴ってしまうものが多いのです。このリスクをできるだけ小さくしよう、これが無危害原則です。
 リスクもさまざまです。典型的には身体のどこかが「痛い」というリスク、身体を傷つけるというリスクです。これを身体的リスクといいます。精神的リスクも重要です。できるだけ心に負担をかけない医療が望ましい医療です。さらに、経済的リスクや社会的リスクも考慮されなければならないでしょう。高額な治療や長期の入院は、わたしたちの生活の質を大きく変化させてしまいます。

③善行原則

 医療の目標は人を健康にし、幸福にすることです。より多くの人をより健康にし、より幸福にすること、これが医療倫理における善行原則です。この善行原則の根は医療従事者のプロフェッショナリズム、すなわち職業としての使命です。医療を受ける人(患者さん)の価値観に寄り添うことは、医療をより良くします。人間をトータルで支えること、幸せにすること、これが善行原則が求める理念です。

④正義原則

 正義原則とは、医療における不平等の解消です。医療とは、わたしたちの社会がストックしている共有の財産であると考えてみましょう。わたしたちの社会の誰もが、この共有の財産を等しく使う権利をもっています。医療資源は、不公正なしかたで偏って配分されてはなりません。また、医学研究で不正な行為をすることは、わたしたちのこの共有の財産を損なうことです。正義原則が求めるのは、医療における公正さです。

次回は「生まれるときの倫理」についてお話したいと思います。
(文:医療倫理懇話会)

 今回の医療倫理に関する記事についてさらに知りたい方には下記の本がおすすめです。
・『自由論』(ジョン・スチュアート ミル (著)/斉藤 悦則 (翻訳)/光文社古典新訳文庫)
・『入門・医療倫理 1』(赤林朗 編/勁草書房)

※おことわり:この記事は市民向けのもので、学術的な厳密さよりも、理解のしやすさを優先しています。また、お問い合わせをいただいても回答しておりませんので、あらかじご了承ください。(ホームページ管理者)